玉蟲敏子『かざりの水脈 日本美術における装飾』 中央公論美術出版 2025年
本書「あとがき」の終わりに「令和乙巳十二月 最終講義に臨む日に」とあるように、玉蟲敏子さんが4半世紀ほど教鞭をとった武蔵野美術大学の退職記念論文集です。その「あとがき」に、玉蟲さんはつぎのように述べています。
美しい美術書を作りたいと思った。日本で出版されている美術全集や論文集などの美術書は、前の方にカラー図版、後ろの方に概説や解説などの活字の頁が拝される構成が一般的であるが、そのようなテキストと図版が分離したものではなく、両者が溶け合うように共存する頁もあれば、作品をじっくりと堪能できる頁もあるような贅沢な美術書を作りたいと切望していた。
このような「見せる論文集」として本書は編集されたのです。玉蟲さんの意図と希望はみごとに達成されたといってよいでしょう。<「かざりの幸さきはう国」の美術論>として、精緻な文章とすぐ脇にあるカラー図版が見るものを魅了します。
玉蟲さんは山上憶良の有名な長歌にある、「言霊の幸はう国」から「かざりの幸はう国」を導き出したのです。僕は口演の際、『國華』創刊号の岡倉天心による創刊の辞を音吐朗々暗唱して、「美の国 美術のまほろば」を導き出すのですが( ´艸`)
最も僕がすばらしいなぁと思ったのは、本阿弥光悦と俵屋宗達の「蓮金銀泥絵下絵百人一首和歌巻」の復元です。半分以上が失われ、残りが諸家分蔵となっているこの傑作和歌巻を、大倉集古館蔵モノクロコロタイプ版と諸家分蔵のカラー図版を使って復元しているので、とても分かりやすいのです。「序曲」に始まり「終曲転生」に終わる全巻の構成を、玉蟲さんは和歌と下絵の不即不離なる関係から丁寧に解き明かしています。
そのもとになったのは、尊敬して止まない福井利吉郎先生が昭和6年、青年教育普及会で講演された「美術」です。とくに「桃山・徳川時代の装飾画」<宗達と光琳>ですが、玉蟲さんはさらに新しい解釈を加えて実証性を高めています。
福井先生の業績は『福井利吉郎美術史論集』全3巻(中央公論美術出版)にまとめられています。『福井利吉郎美術史論集』編集刊行委員の一人として、僕は下巻の解題を担当させていただきました。じつは東京国立文化財研究所の資料室で研究される晩年の福井先生に、求められる図書をお運びするのが僕の役目でした。
玉蟲さんの論考を拝読しながら、それらの思い出が昨日のことのようによみがえってきたのでした。もっとも玉蟲さんは、福井先生の「桃山・徳川時代の装飾画」を含む「美術」が、どういう理由か『福井利吉郎美術史論集』に採択されていないとお書きになっていらっしゃいますが、上巻に収めたような気もするのですが……。
これまで「7日間ブックカバーチャレンジ」を2回ほど「饒舌館長ブログ」にアップしました。そのまえの何回かは、フェイスブックにポストしただけだったので追跡できません。「饒舌館長ブログ」の2回分を勘案して今回を第15回とし、以後通し番号でアップしたいと思います。

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