その小山先生が昭和21年(1946)2月にお書きになって、翌年座右宝刊行会から出版されたのが『正倉院三彩』です。岡戸さんはこれをある古本屋さんで見つけ、「美術史学徒として美しいものと生きていく力と喜びと希望を伝える」と深く心を動かされ、講義の資料としたのでした。
脱稿は昭和21年2月――あのカタストロフとその後の騒擾を考えれば、にわかには信じられないことではないでしょうか。ほとんど奇跡のように感じられます。小山先生は焼け残った『正倉院御物図録』を何気なく開いて、正倉院三彩の美しさに今さらのようにうたれたのです。そしてこの珠玉のごとき一書をものされたのです。
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