2017年7月17日月曜日

サントリー美術館「神の宝の玉手箱」2


「浮線綾」というのは、線つまり糸を浮かせるようにして織った浮織物の綾[あや]という意味の染織用語です。しかし藤末鎌初以降は、むしろ唐花円文の一種を指す有職故実文様の名称として使われることが多くなりました。もちろん漆工芸である「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」の場合も、この意味で用いられています。

金粉を密に蒔いた沃懸地[いかけじ]に、螺鈿をもって、蓋の表から蓋鬘[ふたかずら]、そして身側面に連続して規則正しく浮線綾がほどこされています。ちょっと曼荼羅を思わせるような、厳密なる幾何学性、あるいは整然たる理智性をもった文様構成は実にみごとで、直立不動の姿勢で鑑賞しなければならないといった気持ちにさせられます。

しかし僕は、蓋の裏にほどこされた草花折枝文の方に惹かれてしまうのです。平目地の上に研出蒔絵[とぎだしまきえ]で表わされた30種ほどの四季にわたる草花たちは、アンシンメトリーを特徴とする、平安後期の和鏡の装飾文様とまったく同じではありませんか。

それらは王朝文化が生み出した、やさしくエレガントな美しさのシンボルだといってもよいでしょう。「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」自体は、鎌倉時代に入った13世紀の作品ですが、そこには王朝の美意識がはっきりと感じ取れるのです。

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