2025年7月4日金曜日

太田記念美術館「鰭崎英朋」4


 もう一つ英朋で忘れられないのは、その筆になる「蚊帳の前の幽霊」です。若いころつとめていた東京国立文化財研究所の近くに、三遊亭円朝の幽霊画コレクションで有名な全生庵がありました。毎年お盆のころ、全生庵で陳列公開されるこの幽霊画を見に行き、谷中のお蕎麦屋さんでお昼を取ってまた研究所に戻るのが、夏の楽しみの一つでした。

このなかに英朋の素晴らしい「蚊帳の前の幽霊」があったのです。その清楚なること、画品賎しからざること、そして艶やかなること、よく知られた円山応挙の幽霊をしのぐものがありました。気味の悪い、あるいは恐ろしい、また風格乏しき幽霊が多いなかにあって、一頭地を抜く幽霊でした。これを描いたとき、英朋は弱冠26歳、前年12月に杉本菊と結婚したばかりでした。新婚ホヤホヤにして、こんな女性の本質を突くような幽霊が描けるとは!!()

 



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