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2025年7月31日木曜日

三井記念美術館「花と鳥」5

 

本展のキューレーションを行なったのは、主任学芸員の海老澤るりはさんです。その海老澤さんが、先日『朝日新聞』夕刊の「私の<イチオシ>コレクション」に「商家率いた活力と発想 大作に」と題して、三井高福たかよしの「海辺群鶴図屏風」を紹介していらっしゃいました。

高幅は幕末から明治にかけて活躍、三井財閥の基礎を築いた実業人でしたが、応挙の弟子に画を学んでこれを趣味としました。この「海辺群鶴図屏風」は応挙作品の模写だそうですが、画技の高さには驚かざるを得ません。かつて「応挙と三井家」という拙文を書いて、創業者・三井高利の思想とその後の三井家について考えたことがあります。その時この作品を知っていれば、是非使いたかったなぁと思いながら眺め入ったことでした。

2025年7月30日水曜日

三井記念美術館「花と鳥」4

 

「鳥類真写図巻」にも、この掛幅にも、三井記念美術館学芸部長の清水実さんが撮影したリアルなカケスの写真が添えられています。比べてみると、始興の写生はやや太目で、完成画の掛幅ではさらに太目になっているように感じられました。

始興の師である尾形光琳の「鳥獣写生図巻」(京都国立博物館蔵)にもカケスが登場しますが、こちらは写真と同じように細めです。あるいは始興の場合、写生の段階で絵画化へのベクトルがすでに働いていたのかもしれません。

始興の「鳥類真写図巻」については、先の清水実さんが『三井美術文化論集』11号(2018)に、詳細な「資料紹介」を寄稿しています。会場では細かい字の留書が読めませんでしたが、清水さんはそれをすべて翻刻し、片仮名を漢字に改めて詠み易くしています。

カケスの留書は「羽裏薄墨/はね裏のむくげ朱墨/朱墨隈/白」――始興の息づかいが伝わってくるようではありませんか!! 写生の重要性を主張して江戸時代絵画を革新し、多くの弟子を養育して円山派を開いた円山応挙は、このような始興の写生から決定的影響を受けたのでした。

2025年7月29日火曜日

三井記念美術館「花と鳥」3

 

やや横長の画面に、ラフな水墨調で樹木を描き、そこにカケスを一羽止まらせています。下には渓流が涼しげな音を響かせています。明らかに「鳥類真写図巻」のカケスをもとに仕上げた一幅です。その巧みな描写だけで始興だと分かりますが、画面左下に「渡辺始興」<始興之印>という、まがう方なき落款が入っています。

はじめて見る始興の佳品です。なによりも「鳥類真写図巻」と直接的に結ばれる作品であることが、とてもうれしく感じられました。水墨+写生という相似たアイディアによる始興の傑作に、「梅に小禽図屏風」がありますが、その掛幅バージョンだといってもよいでしょう。

この屏風は始興が61双金地の「山水図屏風」を描き、その裏にみずからこれを添えたものでした。あくまで「山水図」が表で、「梅に小禽図」は僕のいう「裏面屏風」でしたが、こっちの方が断然おもしろいのです。若いころ大変お世話になった組田昌平さんのお宅で拝見した逸品でしたが、その後ロサンジェルス・カウンティ美術館のコレクションになりました。


2025年7月28日月曜日

三井記念美術館「花と鳥」2

三井記念美術館のメインルームに入ると、いの一番にこの「鳥類真写図巻」へと直行しました。入って左側のケースに、巻頭から延々と――といった感じで陳列されていますが、それでも全部は展示できず、巻末の方は捲かれたままになっています。それほど長い図巻なんです。17メートル以上あるんです。写真師の橋本弘次さんと一緒に調査した日のことを思い出しながら、巻頭から順々に見て行きました。

ヤジ「またまた後期高齢者のセンチメンタルジャーニーみたいな話だな!!

 ところが見終わって振り向くと、反対側のケースに、この「鳥類真写図巻」から抜け出てきたようなカケス(カシドリ)の掛幅が展示されているじゃ~ありませんか。不思議なことがあるものだと思って近づくと、これが同じ渡辺始興の作品だったんです。 

2025年7月27日日曜日

三井記念美術館「花と鳥」1

 

三井記念美術館「美術の遊びとこころⅨ 花と鳥」<97日まで>

 先月618日、NHK青山文化センター講座で取り上げた「魅惑の日本美術展」です。清水真澄館長から、渡辺始興の「鳥類真写図巻」が出陳されるとお聞きしたので、ぜひ受講者に見てほしいと思ったのです。半世紀前の東京国立文化財研究所時代、そのころの所蔵者であった三井高遂たかなるさんのお許しを得て、ご自宅にうかがって調査させていただき、その結果を機関誌『美術研究』に発表した、僕にとって青春の思い出(!?)みたいな作品なんです。

高遂さんを紹介してくれたのは、辻惟雄さんでした。高遂さんはニワトリの研究家としても有名でしたので、ニワトリの画家伊藤若冲を研究していた辻さんは、早くから親しくされていたんです。僕が江戸時代の写生に興味をもっていることを辻さんは知っていて、高遂さんがすばらしい始興の写生図巻をお持ちだと教えてくれたのでした。

2025年7月26日土曜日

和歌山県立博物館「祇園南海」9

 書幅のなかにもゼッピンがありました。明末の有名な書家にして画家であった張瑞図の書風を真似して書いた「五言詩書」(個人蔵)です。静嘉堂文庫美術館には張瑞図のみごとな「山水図」がありますが、この重文本については、かつて私見をアップしたことがあるように思います。

もちろん南海も大の酒好きでした。その南海が賛酒詩を張瑞図スタイルで書いたのは、張瑞図も大の酒好きだったからです。いや、「大の酒好き」は「酒仙」と訂正することにしましょう( ´艸`)

  この濁酒どぶろくのすばらしさ!! 知っているのは俺だけだ!!

  酔って夢見ん花の下 狂って月下に詩を吟ぜん

  眺める天地 晴れ渡り 万物 完璧 俺 無力

  眺めるだけじゃ~哀れゆえ 朝から醨うすざけ浴びるのだ

 

2025年7月25日金曜日

和歌山県立博物館「祇園南海」8

竹図

  淇水の竹林 緑なり 瀟湘 一片ひとひら 雲 浮かぶ

  楽しみたいのだ自みずからが 贈るわけにはいきません

 南海はつぎの中国梁・陶弘景のよく知られた詩を引用しているようです。

陶弘景「山中何の有る所ぞと詔問せられ、詩を賦して以て答う」

   皇帝様から下問あり 「山中 何があるのだ?」と

   「峰の上にはたくさんの 白雲 浮かんでおりまする

   けれどもこれは私奴わたしめが ながめて楽しむだけでして

   折角ですが皇帝に 差し上ぐわけにはまいりません」

 

荻生徂徠の賛酒詩がスゴクいい❣❣❣ 『荻生徂徠全詩』3<東洋文庫>饒舌館長ベストテン 7

  荻生徂徠「美人 酒に中る」  かの 楊貴妃を玄宗は 艶めく仙女と惚れたけど  この酔態を見たならば さらにお熱を上げただろう  ちゃんと黒髪 整えりゃ きっと眠りの 足りてない  海棠みたいに妖艶に なると言うのはどこのバカ ? *この一首は注解を読んでもチョッと難解ですが、...