やや横長の画面に、ラフな水墨調で樹木を描き、そこにカケスを一羽止まらせています。下には渓流が涼しげな音を響かせています。明らかに「鳥類真写図巻」のカケスをもとに仕上げた一幅です。その巧みな描写だけで始興だと分かりますが、画面左下に「渡辺始興」<始興之印>という、まがう方なき落款が入っています。
はじめて見る始興の佳品です。なによりも「鳥類真写図巻」と直接的に結ばれる作品であることが、とてもうれしく感じられました。水墨+写生という相似たアイディアによる始興の傑作に、「梅に小禽図屏風」がありますが、その掛幅バージョンだといってもよいでしょう。
この屏風は始興が6曲1双金地の「山水図屏風」を描き、その裏にみずからこれを添えたものでした。あくまで「山水図」が表で、「梅に小禽図」は僕のいう「裏面屏風」でしたが、こっちの方が断然おもしろいのです。若いころ大変お世話になった組田昌平さんのお宅で拝見した逸品でしたが、その後ロサンジェルス・カウンティ美術館のコレクションになりました。
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