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2022年7月14日木曜日

追悼 田沼武能先生9

 

 11月中旬、京都・大原は紅葉の真っ盛りだった。その紅葉を眺めながら山道を登ると、丸太に「小松均墨絵教室」と札が下がっていた。丸太門を入ると家が何軒もあり、どれが氏の住まいか分からない。大声で呼ぶと数匹の犬に吠えられてしまった。まるで仙人屋敷のようだった。

 やがて返事があり、奥の1軒に入った。小松氏は86歳、今夜は寒さが厳しいから教室で絵を描くという。夫人はあわてて石油ストーブに火をつけた。教室は広く、裸のマネキン人形、鳥の剥製などが置いてあり、壁には「敬慮」、「遠くの物は近くに見よ、近くのものは遠くに見よ、筆は剣より重し」、その隣に「マムシが出ます。出来れば長グツ持参」など、小松語録があちこちに貼ってあった。

 富士山を描く氏は口から咥えタバコを切らさない。それが短くなって口唇がやけどするのではないかと思うところまで吸っている。そしてゼーゼーと息をしながら時おり咳きこむのであった。


2022年7月13日水曜日

追悼 田沼武能先生8

 


あるいは、田沼武能先生がスチール写真に小さな動きを加えようとされたのでしょうか。その傑作は、これまた大好きな「佐藤春夫」と「小松均」ですね。「佐藤春夫」は田沼先生にとっても自信作だったのでしょう、表紙に選ばれています。

しかし「小松均」も甲乙つけがたき一点だと思います。その取材ノートを引用させてもらうことにしますが、会ったこともない小松均画伯を彷彿とさせて、写真に劣らずいい文章だと、心を深く動かされます。

2022年7月12日火曜日

追悼 田沼武能先生7

 


それがもっとも際立つのは、僕の大好きな永井荷風に対する取材ノートでしょう。両者ともお金の話をオチにしていますが、土門拳は自分が荷風におごったことをあえて書き、田沼先生は荷風の預金通帳に2千数百万円が残っていたという新聞記事をただ引くだけにしています。両者の対照が実におもしろいじゃ~ありませんか。

『時代を刻んだ貌』をながめていると、煙草を吸っている男性の写真がとても多いことに驚きます。どなたかのおっしゃった<禁煙ファシズム>などまったくなかった時代、男が煙草を吸うのは当たり前だったわけですが、芸術家の場合にはパーセンテージも高かったのでしょう。

2022年7月11日月曜日

追悼 田沼武能先生6

 

しかし僕の好みをブッチャケにいえば、やはり田沼武能先生の『時代を刻んだ貌』ですね。もっともこれは、僕が程よいバランス感覚をもつ人間であることの反映かもしれませんが……() 

それはともかく、田沼先生と土門拳の違いを写真よりもっと端的に教えてくれるのは文章の方です。両者とも、一人ひとりに取材ノートを添えています。土門拳はほとんど自分を、あるいは自分との関係を語っていますが、田沼先生は対象を語り、ときどきチョット自分の感想を加える程度にとどめています。

2022年7月10日日曜日

追悼 田沼武能先生5

 

山口さんは年少の田沼さんをヒイキにしていた。田沼さんぐらい、大家ぶらない、芸術家ぶらないカメラマンはいないのではないか、と思っていた。田沼さんの写真には何か詠み人知らず、といったような趣があると言ったのは山口さんである。これは田沼さんの人と芸術を言い当てて、まさに至言である。

もちろん、肖像写真としてどちらがすぐれているかなどという問題を、ここで議論することはナンセンスでしょう。それぞれ肖像写真として最高の境地に達していて、比較すること自体が間違っていると思います。





2022年7月9日土曜日

追悼 田沼武能先生4

 



僕は土門拳の『風貌』(講談社文庫)も書架から引っ張り出してきて、一緒にながめながら、このエッセーを書くことにしました。あちこちとページをめくっていると、田沼武能先生の写真には、対象が抜かりなく写し撮られているのに対し、土門拳の写真には土門拳が抜かりなく写っているように感じられました。

たとえば両者に共通して登場する梅原龍三郎、永井荷風、柳田國男、小林古径、川端康成を比べてみれば、一目瞭然、クダクダしい比較は必要ないでしょう。瀧澤修のようにチョット区別がつきにくい作品もあるのですが、大抵はすぐに分かります。

もちろんこれはすでに指摘されているところで、『時代を刻んだ貌』に序文を寄せた親友の大村彦次郎さんは、『江分利満氏の優雅な生活』で有名な作家・山口瞳の田沼先生に対する感想を書いています。


2022年7月8日金曜日

追悼 田沼武能先生3

 

田沼先生がとらえたキーン先生のお姿は、目黒の能楽堂で狂言「千鳥」を演じる一瞬です。1956年に撮影されたものですから、34歳の若きキーン先生です。取材ノートによると、久しぶりに日本を訪れたキーン先生が、留学中に茂山千之丞師について学んだ狂言の成果を、日本の友人たちの前で披露したときの1枚で、「青い目の太郎冠者」の面目躍如たるものがあったそうです。

田沼先生は「これからの日本文化にとって最も大切な理解者となる人だろう」と結んでいます。田沼先生の慧眼にシャッポを脱ぎたい気持ちになりますが、あるいはその予想を超えていたかもしれません。キーン先生は、その後の日本文化を創り出したお一人になったのですから……。


絶滅写真作家(!?)杉本博司さんの魅力を改めて感じさせてくれる特別展が竹橋で開催中です!!8

    僕 は 杉本さんの写真以外のお仕事をほとんど知らない ん です。 もっとも 料理については、 『趣味と芸術――謎の割烹 味占郷』(ハースト婦人画報社 2015年)を拝見して、感を深くしたことがありました。   杉本さんの手になるお料理は、 どれもこれもじつに旨そうな ん ...