しかし人間は悲しいもので、あるいはよくしたもので、すぐに慣れてまったく気にならなくなってしまう。社会生活や家庭生活をともかくも無事送ることができるのは、人間がこの慣れという特技をもっているためなのだろう。これがなかったら、皆ノイローゼになってしまうはずだ。
「あずま湯」さんには自転車で十五分ほどかかるから、冬は湯冷めをするし、夏はまた汗をかくということになるが、これまたすぐに慣れてしまう。かくしてこの銭湯が、僕にとりなくてはならない大切なオアシスになっている。
銭湯は日本の文化である。ある定日は女、その他は男と分けて開店する男女入れ込み湯や混浴が禁止され、現在の銭湯形式が生まれたのは、江戸時代、寛政年間のことらしい。それからでも二〇〇年以上の歴史がある。江戸絵画が大好きな僕にとって、銭湯につかることは江戸文化を直接体験することになる。
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