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2018年2月7日水曜日

『逝きし世の面影』のネコ3


 だが彼女によれば、化猫にはずいぶんと愛らしいのもいた。土井山城守の居城刈屋城には、いつしか小犬ほどの猫が棲みついていた。ある春のこと、ある春のこと、「花の盛りいつよりも出来よく、日もすぐれて長閑」だったので、御番の侍たちは申し合わせて、外庭の芝生で花を見ながら弁当をつかっていた。そこへどこから現れたか、「えもいわれず愛らしき小猫の毛色見事にぶちたるが、紅の首たが掛けて走りめぐり、胡蝶に戯れ遊ぶさま、あまり美しかりし故、いずれも見とれて居たりしが」、そのうち「首輪をかけたのは飼猫の証拠、こんな小猫がどうやって城中まで迷い来たのか、怪しい怪しい」と言いながらある者が焼お握りをひとつ投げてやると、小猫はたちまち大猫の正体を現わしてそれに喰いついた。正体を見せたのを羞じたのか、お城に棲むその大猫はその後二度と人前に姿を見せなかったという。


2018年2月6日火曜日

『逝きし世の面影』のネコ2


 アンベールは言う。日本の「猫は鼠を取るのはごく下手だが、ごく怠け者のくせに人に甘えるだけは達者である」。そしてリュードルフによれば、日本の「可愛らしい猫」が鼠を全然捕えないのは、「婦人たちの愛玩物」であって「大事にされすぎて」いるからなのだ。そして鼠といえば、中勘助を育てた例の伯母さんの家運が傾いたのも、ひとつには、白鼠を大黒様のお使いだといって「お福様、お福様と後生大事に育て」た結果、鼠算でふえたそいつらに「米櫃の米を食い倒され」たからだった。

只野真葛は『赤蝦夷風説考』の著者として知られる工藤平助の長女であるが、彼女の書きのこした『むかしばなし』には化物・妖怪のたぐいがしきりに登場する。むろん彼女はその実在を信じていたのである。人を化かすのは狐狸ばかりではない。猫もまた化かすのである。仙台藩が袖ヶ崎に江戸藩邸を構えたとき、長屋に石が打ちこまれたり、蚊帳の釣手が落ちたり、妖異が絶えなかったが、長屋の廂に昼寝している大猫の姿が小面憎いというので、ある人が鉄砲で仕留めたところ、その後異変ははたとやんだと彼女は書いている。


2018年2月5日月曜日

三井記念美術館「国宝雪松図と花鳥」4


しかもこの紀要には、いわゆる腰巻が巻かれ、図録として購入することもできるんです。グッドアイディアですね!! 二人の清水さん――清水実さんと清水真澄さんからこの紀要を頂戴し、拝読すると僕の拙論が詳しく紹介されているではありませんか。うれしく感じるとともに、ちょっと穴があったら入りたいような気分になりました。

清水実さんは、全巻をカラーで紹介し、詳しい解説論文を執筆しています。全46紙をモノクロ図版で掲載し、一つ一つに番号を振ったあと、その下に留書き(画中の書き込み文字)の翻刻と見解を加えて完璧を期しています。

僕の間違いを正し、よく分からなかった鳥の同定を進められたことも感謝しなければなりません。「鳥類真写図巻記載の鳥の名称一覧」も至極便利です。さらに清水さんは、新たな知見を加えて作った克明な「正誤表」を送ってくれました。

それらを携えて会場を訪ねれば、清水さんがお住まいの栃木を中心に撮った鳥の美しい写真が、図巻のそこここに添えられて、始興の写生力を実証するとともに、展示効果を高めています。美術館における研究と展示の、すばらしいモデルケースだといってよいでしょう。

それはともかく、考えてみると拙論を発表したのは45年も前のことです。あのころ僕も真面目だったのだ(!?)




2018年2月4日日曜日

三井記念美術館「国宝雪松図と花鳥」3


実際に見ると、本絵にまとめられる前のヴィヴィッドな感覚に、深く心を動かされました。この作品が昭和47年の秋、東京国立博物館で開催された特別展「琳派」に出陳されて、広く知られるようになったのも、とてもうれしいことでした。

一応の調べを終えた翌年、東京国立文化財研究所の機関誌である『美術研究』の290号にと291号の2号にわたって、紹介することができました。僕にとって、青春の忘れがたき拙文の一つ、もちろん琳派400年記念祭のときに出した『琳派 響きあう美』に、ソク収めたことでした。

この作品が、今回の企画展に全巻展示されることになりました。展示されるだけではありません。同時に『三井美術文化史論集』11号に、清水実さんの「三井記念美術館蔵『紙本着色 鳥類真写図巻 一巻 渡辺始興筆』」という、意を尽くした研究論文が発表されたのです。

2018年2月3日土曜日

三井記念美術館「国宝雪松図と花鳥」2


「僕の一点」は、渡辺始興筆「鳥類真写図巻」です。始興研究上きわめて重要なこの写生図巻は、僕にとって忘れることができない作品でもあるんです。昭和46年(1971)、東京国立文化財研究所に採用された僕は、江戸絵画における「写生」に関心を集めていました。というより、それは卒論や修論の延長線上にある問題でしたから、きわめて安直な研究テーマ設定だったんです。

そんなとき、新町三井家の三井高遂[たかなる]氏が、渡辺始興の「鳥類真写図巻」を所蔵されているということを、辻惟雄さんから聞きました。高遂氏は東京帝国大学大学院で動物学を専攻されましたが、鳥類、特に鶏に関心が高く、図鑑を出版されるほどでした。鶏の画家・伊藤若冲を研究していた辻さんは、大先輩である高遂氏に、鶏研究家の立場からみた意見を尋ねたことがあり、そのとき始興写生図巻を見せていただいたとのことでした。

それと思われる数種と落款が、中野其明編『尾形流百図』に載っていることを思い出した僕は、こりゃー面白そうだ、ちょっと調べてみたいなぁという気持ちが高まりました。早速、高遂氏に調査依頼のお手紙を出し、快諾を得ると、写真師の橋本弘次さんを伴って私邸をお訪ねしました。高遂氏は母校の近くにお住まいでした。

2018年2月2日金曜日

三井記念美術館「国宝雪松図と花鳥」1


三井記念美術館「国宝雪松図と花鳥 美術館でバードウォッチング」<24日まで>

 三井記念美術館コレクションのなかから、鳥をモチーフにした絵画や工芸を選りすぐって構成した、とてもおもしろい企画展です。モチーフにした作品ばかりではありません。「鵺」という銘をもつ楽茶碗まで、加えられています。静嘉堂文庫美術館でもすぐパクることができそうなアイディアです。

しかし、三井家には代々禽鳥を愛し、研究した人が多く、それがこの企画展を発想させる原動力となったということをパネルで知ると、だからこそこんな充実した内容に高まったんだなぁと、よく腑に落ちたことでした。円山応挙のご存知「雪松図屏風」は、客寄せシャンシャンみたいなもので――事実この国宝の前が一番混み合っていましたが――今回見るべきは断然「花鳥」の方です。



2018年2月1日木曜日

『逝きし世の面影』のネコ1


 渡辺京二さんの名著『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー 2005年)には、幕末明治のネコが登場します。「生類とコスモス」の章です。「ネコ好き館長」としては、無視できません。いや、ネコ文化史上とても重要な文献だと思いますので、ここに掲げておくことにしましょう。

マーガレット・バラは夫とともに、文久元年から神奈川宿の成仏寺に住んだが、「コウモリや鳥や昆虫が、ぶんぶん、ちゅうちゅう、ひゅうひゅうと絶え間なく鳴く声、飢えた狼のように犬が吠える声、ずうずうしく物をさらってゆく悪がしこいカラスの鳴き声」にはうんざりだった。彼女の考えでは、「市場に出かけた召使が買い物を入れた籠を頭にのせて帰れないのは、このカラスどものせい」だった。この古寺では、夜中になると鼠たちが走りまわって、「地震」を起した。小猫は鼠がよほどこわいらしく、「物音がしただけで飛んで逃げ」る。日本の猫は「大きくてつやつやと肥えていますが、怠惰で、ネズミをとって食べる気はないのです。ここのネズミは猫と同じくらい大きいものですから、猫のほうは飛びかかっても無駄だと知っているのでしょう。ネズミはおかげでしたい放題、とても横暴です」。

絶滅写真作家(!?)杉本博司さんの魅力を改めて感じさせてくれる特別展が竹橋で開催中です!!14

    この「MINGEI」と名づけたお店は大成功、絹枝さんは店番と子育て、杉本さんは 出張 買い付けと役割分担をする ことになり 、すぐに離婚は取りやめになりまし た。 目出度しめでたし!! 僕が杉本さんをニューヨークにお訪ねしたのはちょうどそのころ でした 。 昭和61年 1...