だが彼女によれば、化猫にはずいぶんと愛らしいのもいた。土井山城守の居城刈屋城には、いつしか小犬ほどの猫が棲みついていた。ある春のこと、ある春のこと、「花の盛りいつよりも出来よく、日もすぐれて長閑」だったので、御番の侍たちは申し合わせて、外庭の芝生で花を見ながら弁当をつかっていた。そこへどこから現れたか、「えもいわれず愛らしき小猫の毛色見事にぶちたるが、紅の首たが掛けて走りめぐり、胡蝶に戯れ遊ぶさま、あまり美しかりし故、いずれも見とれて居たりしが」、そのうち「首輪をかけたのは飼猫の証拠、こんな小猫がどうやって城中まで迷い来たのか、怪しい怪しい」と言いながらある者が焼お握りをひとつ投げてやると、小猫はたちまち大猫の正体を現わしてそれに喰いついた。正体を見せたのを羞じたのか、お城に棲むその大猫はその後二度と人前に姿を見せなかったという。
2018年2月7日水曜日
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渡辺浩『日本思想史と現在』8
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