この「百草蒔絵薬箪笥と飯塚桃葉」展は、伊藤若冲を考える際にもおもしろいヒントを与えてくれる特別展でした。たとえば木村蒹葭堂旧蔵の「貝類標本」(大阪市立自然博物館蔵)です。美しい朱漆の小箪笥――その引き出しに作られた小さな区画に、394種もの貝殻が整然と並べられたさまは、標本箱なんかじゃありません。これ自体りっぱな美術品です。
朱漆の蓋をみると、黒漆で波文を描き、本物の貝殻を貼り付けてあります。波文はみごとな「青海波せいがいは塗り」になっています。元禄ごろ江戸で活躍した塗師ぬし・青海勘七が考案したという技法です。その構成は国宝「動植綵絵」(皇居三の丸尚蔵館蔵)の「貝甲図」そっくり、このような標本工芸(!?)が若冲に霊感を与えた可能性も考えられそうです。
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