2021年8月11日水曜日

サントリー美術館「ざわつく日本美術」5

しかし一方、宋の蘇東坡の如きは、これはいわゆる『詩経』国風の「色を好みて淫せざる」者で、これを非難する連中は、「小児強いて事を解する者にすぎぬ」と反駁している。近年に至って魯迅がつとにこの賦を高く評価し、特にその大胆な恋愛観は中国文学史上稀有のものとして、ロシアの盲詩人エロシェンコにも紹介したことがあるという。今日では魯迅の説を支持する人が多い。この作品の制作年代は未詳だが、淵明が最初の妻を亡ってから、継室を迎えるまでの鰥居[やもめ]時期の作とする説が有力。とすれば時に淵明30歳。

 言うまでもなく――英語でいえばNeedless to say、中国語でいえば那是不用説的――饒舌館長は蘇東坡や魯迅に賛意を表し、こうべを垂れ、オマージュを捧げたいのです。この祐信筆「美人図」と関係するのは、「閑情賦」のなかでも「十願」あるいは「十悲」と呼ばれる、クライマックスの十段です。陶淵明が女性への恋情を吐露していますが、すごく倒錯的なんです。お馴染みのマイ戯訳で……。

 

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