しかもまずいことに、ヌードはリアリズムの絵画でした。現実の肌の色のままに塗られて体温を感じさせ、陰影が施され、人間そのもののプロポーションがまもられていました。絵空事の春画とちがって、現実の裸体にきわめて近かったのです。笑って済まされない絵画でした。さらにそれが博覧会や展覧会という公開の場所で、公衆の面前に展示されたことでした。
たしかに春画は、一般に流布していました。しかし見るときは、個人かごく限られた人数のグループで楽しむアンチームな絵画だったでしょう。少なくとも、床の間に掛けたり、大絵馬に仕立てたり、書画会で揮毫されたりはしませんでした。春画ではない普通の浮世絵は、床の間はともかく、柱絵として柱に掛けられましたし、大絵馬の主題や様式に選ばれました。浮世絵師は書画会にちゃんと参加しています。
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