すでに紹介した渡辺京二さんは、名著『逝きし世の面影』の「裸体と性」の章において、そんな状況をよく伝えています。幕末の外国人観察者を驚かせたのは、春画・春本のはばかりなき横行でした。それはどこの店でも堂々と売られ、若い女性が何の嫌悪すべきこともないように買い求めていました。
とくに外国人との関係で愉快なのは、ペリー艦隊が来訪したときのことでした。面白半分に春本を水兵に与えたり、ボートに投げ込んだりするものがいたために、幕府の役人がペリーから抗議を受けたというのです。
春画が性的な絵画であり、世を乱すものであるから、これは取り締まられなければならないというのは、西欧キリスト教的価値観でした。だからこそ、それは外国人に対して恥ずかしかったのです。これまでこの事実ばかりが指摘されてきましたが、実は儒教的価値観でもあったことを見逃すべきじゃないと思います。それは『礼記』内則に出る有名な格言「男女七歳にして席を同じゅうせず」にまで、さかのぼることになります。
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