縁訳を奇僻とする一般的な見方に対しては、明霞の本意を知らぬものとして師を擁護するのだが、結果としては不採用の立場に立つわけである。ましてや明霞の勧める唐音直読法などは、「世上みな音読すること能ざれば、倭読の声にて大概節奏もよく、口耳にも順穏に、吟誦にも信屈ならず、記憶にも便利なるを要とすべし」 ということになる。 大典の穏健な考え方が、これらによく反映しているというべきであろう。
小畠文鼎によれば、大典の思想は折衷主義であって、著書『四書越俎』には全編にわた つて「折衷」の文字が見え、また「衆説を参考して之を研尋し、力めて折衷を求む」とも あるという。私はこれを国立国会図書館所蔵本によって確認してみた。「折衷」の文字は 数か所に見えるだけだが、大典の思想が折衷主義的傾向を有することは充分理解できた。 特に卷之二の「論語上」の冒頭は大典の思想をよく示す部分で、右の引用もここに現われる。

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