「僕の一点」は建長寺所蔵の「釈迦三尊図」ですね。南宋仏画のゼッピンです。じっと観ていると、一部に華麗な色彩を使いながらも、異民族に北半分を奪われてしまった南宋人の哀しみと愁いが胸に迫ってくるような色感です。南宋絵画というと、馬遠・夏珪の水墨山水画や、禅宗水墨画がまず頭に浮かびますが、このように重厚な色彩世界が同時に存在していたんです。
その中心には画院画家がいたはずで、我が国には折枝画の名品が少なからず遺っています。それは雪舟に代表される水墨画だけでなく、絵所預の土佐派が色彩表現を担っていた室町時代絵画とパラレルな関係に結ばれているようにも思われます。
この「釈迦三尊図」は我が恩師・米澤嘉圃先生が愛して止まなかった南宋仏画として、僕の心に深く刻まれています。先生は『國華』837号(1961年)にこれを紹介され、「第一級に位する名品」と位置づけされました。

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