2024年5月8日水曜日

皇居三の丸尚蔵館「近世の御所を飾った品々」5

もちろん、中世に入れば山上憶良の歌は忘れ去られ、画家や鑑賞者に意識されることなく、記憶の残滓が脳内のどこかに沈殿しているに過ぎなくなっていたことでしょう。

しかし、憶良の歌のDNAだけは伝えられていたように思われてなりません。例えば俵屋宗達の傑作「松島図屏風」(フリーア美術館蔵)も浜松図のバージョンですが、日本絵画としては珍しいほどに気宇壮大、ワビやサビなど微塵もないのですから……。たとえそうでなかったとしても、現代の私たちが憶良の歌を通して浜松図を鑑賞することに、何の不都合があるでしょうか。

 皇居三の丸尚蔵館所蔵の六曲一双屏風は、海北友松の彩管になるやまと絵系屏風の傑作として、古くから高く評価されてきました。落款印章はありませんが、岩や土坡の皴法しゅんぽうをみれば、友松筆であることはいささかも疑いありません。旧桂宮家に伝来した作品であることも、傍証になるでしょう。



 

0 件のコメント:

コメントを投稿

世田谷美術館「民藝」5

   柳宗悦にとって民藝はレーゾンデートルであり、柳哲学完成のための秘薬であり、存在最後の砦でした。柳はかの文芸雑誌『白樺』の同人――創刊から廃刊に至るまでずっと同人でした。柳の本格的文筆活動は、『白樺』に始まったといっても過言ではないでしょう。 水尾先生によれば、武者小路実...