2019年7月21日日曜日

山種美術館「速水御舟」12


*山﨑妙子「速水御舟――日本画への挑戦」
(山種美術館『新美術館開館記念特別展 速水御舟――日本画への挑戦』カタログ 2009年)
《名樹散椿》は、昭和52年に昭和期の作品として初めて重要文化財に指定された。……御舟は、前年の《翠苔緑柴》に引き続いて金地の大画面に再挑戦したわけだが、当初は椿でなく京都愛宕山の桜の大樹を描く予定であった。そのために、各地の桜の名木を取材した写生も多数残されている。彼が、椿に変更したきっかけの一つに、柳田という絵具屋から非常にいい朱が手に入ったため、その朱を使おうという気持ちがあったようである。一般的な制作のプロセスとは逆の、使いたい絵具があってそれに合う画題を選んだというこのエピソードは、御舟という画家の制作の実態を物語るものとして興味深い。日本画の画材の特質を知り、最大限にそれを生かしていくことは彼の目指していた新しい日本画の創造に不可欠なことであったといえよう。


*御舟の本質、いや、日本絵画や日本文化の本質を突くこの興味深いエピソードは、御舟を尊敬して止まなかった弟子の吉田善彦が伝えるところであるそうですから、真実であったにちがいありません。

0 件のコメント:

コメントを投稿

渡辺浩『日本思想史と現在』8

  渡辺浩さんの『日本思想史と現在』というタイトルはチョッと取つきにくいかもしれませんが、読み始めればそんなことはありません。先にあげた「国号考」の目から鱗、「 John Mountpaddy 先生はどこに」のユーモア、丸山真男先生のギョッとするような言葉「学問は野暮なものです」...