2019年3月12日火曜日

東京都美術館「奇想の系譜展」5


国芳は美人画と役者絵の両方面に数多くの作品を残したとはいえ、初代豊国の示した退廃的傾向をよりいっそう推し進めた浮世絵師の一人にすぎないのです。

もちろん僕は、『日本美術全史』の欠点をあげつらっているのではありません。それどころか、本書は当時の最高水準をいく啓蒙書でした。学部の専攻課程に進んだとき、まず初めに通読を勧められたのが本書でした。だからこそ、当時における江戸絵画史の研究や評価の状況を知るためには、何をおいても参照されなければならない本なのです。

 『奇想の系譜』が書かれたころ、日本社会は大きな転換期を迎えていました。昭和31(1956)年の「経済白書』が、「もはや、<戦後>ではない」と宣言してから10年ほどが経ち、この間わが国は、驚くべき経済発展を続けていました。

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