2019年1月19日土曜日

山種美術館「皇室ゆかりの美術」2


「僕の一点」は、前田青邨の「唐獅子」六曲一双屏風(宮内庁三の丸尚蔵館)です。昭和天皇即位礼をことほぎ、青邨に加えて鏑木清方、橋本関雪、川端龍子、堂本印象という当時を代表する5人の日本画家が屏風絵を献上しました。依頼したのは、静嘉堂文庫を確立発展させた三菱社長・岩崎小弥太でした。

青邨は華麗な色彩、シンプルにして明快なフォルム、おおらかな垂らし込み技法という琳派画風によりながら、一見して昭和の青邨だと直感できる個性的大画面を生み出しています。これはすでに指摘されるところです。しかし僕は、青邨がこの屏風を構想したとき、かの狩野永徳に対する対抗意識があったにちがいないと思います。

唐獅子図の最高傑作ともいうべき永徳屏風は御物でしたから、実際に青邨は見せてもらったのではないでしょうか。それは霊感源などという生易しいものではなく、ライバル意識を掻き立てたにちがいありません。たとえ実際に見なかったとしても、青邨が永徳屏風を知っていたことは、改めて指摘するまでもありません。

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