みんな海外調査の際に買い求めたアンティーク――と言うよりジャンクである。ジャンクであっても、これで一杯やれば、その時の想い出が、まるで昨日のことのようによみがえってくる。もうこの歳になると、明日も全力で頑張ろうなどと思ってガンガンやるよりも、過去の思い出に浸りながら、チビチビやる方がずっと楽しい。
「錫の徳利」は1992年パリで手に入れた。この年の7月、成田空港からモスクワ経由でウィーンに飛んだ。その頃、いま『國華』主幹をつとめる小林忠さんが、講談社から『秘蔵日本美術大観』という豪華図録のシリーズを刊行しつつあった。その「ウィーン工芸博物館」と「ギメ美術館」の編集を、僕に回してくれたのである。
まずウィーンの調査が終わると、僕だけベルリンに飛び、国際美術史学会(CIHA)に出て司会役をやった。それが終わるとパリに向かい、小林さんと一緒にギメ美術館の調査を開始した。それが終わると、すでに来ていた家族と合流し、パリと南仏を楽しんだ。それまでいつも一人旅だったから、初めての海外家族旅行である。
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