『朝日新聞』の石山直さんからは、鑑賞法も必ず語ってほしいという要望が寄せられたのですが、美術に正しい鑑賞法や決まった観賞法など存在しないというというのが持論ですので、ちょっとこまってしまいました。
この「名作誕生」展は、基本的にパノフスキーが唱えたイコノロジー(図像解釈学)という方法によって組み立てられています。それまでの様式論に対して提出された革命的方法で、形態を中心に主題や意味内容を文化史的観点から考察しようとするのです。現在、人文科学の中で美術史学がもっとも人気があるようにみえますが、これもイコノロジーの発展と密接に結ばれていると思います。
もっとも、イコノロジーに対しては早くから批判が寄せられ、ゴンブリッジはその限界をやわらかに指摘しました。先日、大高保二郎さんに聞いたところでは、フランスのディディ・ユベルマンという研究者も強い批判者だそうです。「当たるも八卦当たらぬも八卦」だなどと茶化す人もいます。しかし、イコノロジーは現在王道ともいうべき美術史研究法だというだけでなく、ふたたび様式研究が主流になることはないでしょう。
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