しかしここでも、渡辺さんは「自分のちっぽけな『愛国心』を満足させたいわけではない」と、沈着冷静そのものです。それどころか、ペリー艦隊に随行したウィリアムズのような中国びいきの欧米人をちゃんと登場させます。それにもかかわらず、欧米人に対する中国民衆の敵対的反応があった事実も明らかにするのですが、それは欧米人自身の侵入が招いた結果であって、その因果関係をまったく顧慮しないボーヴォワルをちょっとたしなめています。
そして最後に、中国南部海岸のひどい気候条件や、あまりに異質な中国の風土を――つまり人間の性質や観念ではなく、自然条件を挙げています。渡辺さんて何とすごい人間なんだろうと、さらに感銘を深くします。
このような渡辺さんの意図にもかかわらず、この文庫本で600ページに近い大著を通読したとき、僕は思わずにいられませんでした。やはり日本は素晴らしい国なんだ。江戸時代こそ理想的な時代だったんだ。僕は100年遅く生まれちゃったんだと……。明らかに渡辺さんの意図に反する読後感であることは百も承知ですが、こういった気持ちをぬぐうことはできませんでした。
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