2017年6月23日金曜日

静嘉堂文庫美術館「珠玉の香合・香炉展」6


 香合からの「僕の一点」は、「交趾四方魚文香合」です。交趾[こうち]というのは、現在のベトナム北部の古名ですが、また中国でベトナム人居住地域を漠然と交趾と呼んだそうです。しかし交趾焼きという焼物は、ベトナムで作られたものではなく、交趾と日本を往来する貿易船で運ばれて来た焼物という意味です。実際は中国の南部、とくに福建の漳州窯で多く焼かれたと推定されています。

この香合はちょっと大振りで、全体にかかる緑釉が深みをたたえ、実に美しいのです。むしろ魚文なんてない方がいいと言いたいくらいです。

さて、このような型物香合の番付が「形物香合相撲」と題されて、安政2年(1855)に出版されているのですが、この番付自体ほとんど遺っておらず、とても貴重なものとなっています。それが静嘉堂文庫美術館には2枚もあるんです!! この2枚の番付も今回展示することにしましたので、陳列されている香合が、当時、どのように評価されていたかを知ることができます。ご自分の評価や好みと比べてみるのもおもしろいことでしょう。実を言うと、「僕の一点」はこの番付に載っていないフンドシカツギのような香合なんです!! 

美しい緑釉のほかに、この香合が僕を引きつけたもう一つの理由は、酒井忠以(号・宗雅)の遺愛品であった点にあります。これは二重の箱に収められているのですが、その外側の箱――これを外箱といいます――の蓋を見ると、裏側に宗雅の朱文瓢印が捺されているのです。宗雅はかの酒井抱一のお兄さんです。

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