机上の空論ではなく、小川さんの体験を通して語られるところに、本書最大の魅力があるといってよいでしょう。また「“名画”を生み出すお金の話」でありながら、真っ当な美術史の知識を与えてくれるとともに、美術とはいったい何ものなのか?といった、本質的問題を考えさせてくれることも、オススメするゆえんです。
加えて僕が興味をもったのは、2015年行なわれた第44回鹿島美術財団美術講演会の総合テーマが、「黄金の誘惑――富と美――」だったからです。このとき僕は司会の役目を仰せつかったのですが、冷や汗をかいたことを思い出します。
何しろ小佐野重利さんの「ルネサンスのパトロン――蓄財と喜捨――」と、小澤弘さんの「金碧芸術の系譜――富と権力の表象――」という二つの薀蓄に富む発表をベースに、総合討議の進行を進めなければならなかったのですから……。
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