2019年6月21日金曜日

金子啓明『古代一木彫像の謎』1


金子啓明・岩佐光晴ほか『<仏像の樹種から考える>古代一木彫像の謎』(東京美術 2015

 去年11月、國華清話会特別鑑賞会が法隆寺で行なわれましたが、「僕の一点」は十何年かぶりに拝見し、改めて感を深くした「百済観音立像」です。そのちょっと前に、鹿島美術財団美術講演会の必要から上記の本を読んだので、紹介がてら、またまた独断と偏見を開陳することにしましょう()

 天平後期から弘仁貞観時代、つまり平安時代前期にかけて一木彫像が盛んに造られるようになります。その理由を、樹種――樹木の種類――の観点から考察しようとして進められた、科学研究費助成研究の成果をまとめたのが本書です。様式的研究や学際的研究に傾きがちであった日本仏教彫刻研究に、新しい視座を用意してくれた、きわめて興味深い画期的研究です。

これまで、このような一木彫像はヒノキで造られていると考えられてきましたが、金子さんや岩佐さんたちは、科学的方法を導入することにより、それらはほとんどカヤであることを実証したのです。つまり、ビャクダンの代用材として「栢」がありましたが、そのさらなる代用材としてカヤが採用されたのではないかというのです。その契機として、かの鑑真和尚の来日が大きくかかわったことも改めて推定されました。

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