2018年10月4日木曜日

『君たちはどう生きるか』6


人生は賭けだ。「一か八かやってみろ」という意味ではない。人生は賭けと同じで、思い通りにはならないからである。勝とうと念じてやっても負けることが多い。自分の考えで行動していうようでいながら、結局はウマ、サイコロ、ルーレットという他人任せだ。それが言いすぎなら、他人によるところが少なくない。人生と賭けの違いを見つける方が難しい。

 こんなことを言うと、きっと顰蹙を買うだろう。人生がギャンブルと同じだなんて、この素晴らしい文明を創り上げてきた崇高なる人間を馬鹿にしている。多くの戦いに勝ち抜き、栄耀栄華をきわめた英雄はたくさんいる。不屈の精神で他人の嘲笑や妨害をはねのけ、偉大な仕事を成し遂げた努力の天才の名だって、十人や二十人すぐに挙げられると……。

このような反論を、全面的に否定することはできないだろう。しかし、ギャンブルだって人間だけが創造し得た高度な文化の一つである。武勲に輝く英雄も、最後は自分の思う通りにならなかったものがほとんどだ。努力の天才だって、つねに運不運にみまわれていたし、まったく独力などということはあり得ない上、その仕事を認めてくれたのは社会なのだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿

すみだ北斎美術館「北斎をめぐる美人画の系譜」8

  著者は凡例末に記される笹浦鈴成ですが、どういう人かよく分かりません。ところが別に、笹葉鈴成という人がいるんです。この人についても不明でしたが、水野稔先生や中野三敏先生が、『<諸家人名>江戸方角分』という本などによって、松前藩主・松前道広の弟である松前百助であることを明らかにさ...