I椹木野衣「絵画における『近代の超克』と『戦後レジームからの脱却』
――成田亨と戦争画」(『戦争思想2015』河出書房新社 2015)
日本の栄えある戦争を描くのに、なぜ鬼畜米英の技法である油絵なのか。ふつうに考えれば、明治期の国粋主義から発した日本画家たちの仕事ではないか、と。ところが事態はまったく逆だったのだ。実は、戦争画を描くにあたっては、日本画家は油絵画家よりも格段に劣るものと見なされていた。明治期に政府お抱えの外国人教師であったアーネスト・フェノロサの好みで、狩野派に近代絵画の画材や技法を取り入れることで改良され、その弟子にあたる岡倉天心によって確立された「日本画」では、本当の意味での「戦争画」は描けない――そう、軍部によって判断されたからだ。このことは、歴史的に言っても美術史に留まらない、たいへん大きな意味がある。
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