2025年8月5日火曜日

根津美術館「唐絵」5

とくに応永年間、熱狂的 に愛好されたので、応永詩画軸 などと呼ばれることもあります。 詩画軸のことを勉強するときには、必ず『禅林画賛  中世水墨画を読む』(毎日新聞社)という本を手元に置かなければなりません。そして監修者である島田修二郎先生の論文「室町時代の詩画軸について」を読まなければなりません。

それによれば、詩画軸は単なる山水画などでなく、特定個人の書斎の図と、送別、招帰の意思をこめて、それに類した想いを詠んだ古人の詩句を選びとり、その趣を描いた詩意図なのです。もっとも本書では、山水的作品を送別・訪友図、書斎図、山水図に分けていますが、この分類も遺品全体を考えるときには悪くないでしょう。

 

2025年8月4日月曜日

根津美術館「唐絵」4

 

 「唐絵」のもっとも重要な一ジャンルに「詩画軸」があります。かつて僕は美術雑誌『月刊 水墨画』に「河野元昭が選ぶ水墨画50選」という連載を続けたことがあります。そのとき現在遺っている詩画軸のなかで、制作年代の確定できる最初の作品「柴門新月図」(藤田美術館蔵)を取り上げ、詩画軸について簡単に述べたんです。それを再録することをお許しください。

南北朝時代から室町時代にかけて、このような形式の水墨掛幅画が大変流行しました。つまり、あまり大きくない画面の下の方に水墨で絵を描き、上の方に題や序文や漢詩を賛として書き加えるもので、当時から詩画軸と呼ばれてきており、現代でもこの名称がそのまま用いられています。


2025年8月3日日曜日

根津美術館「唐絵」3

 

それは①中国で制作され日本へ舶載された絵画、②中国の風景や風物を描いた絵画、③中国画の画風をもって描かれた絵画の3つです。もちろん②と③の場合、日本で制作された絵画ということになります。

つまり①は中国画という制作地域を表わし、②は主題テーマを示し、③は様式スタイルを象徴しているということになります。言うまでもなく①が本来の意味でしょうが、それから発展して②や③が成立、日本の絵なのにそれを唐の絵と呼んだのです。日本美術と中国美術の密接な関係を考える際、とても興味深い現象ではないでしょうか。

伊藤紫織さんが『江戸時代の唐絵 南蘋派、南画から南北合派へ』(春風社 2023年)という興味深い一書を著わすことができたのも、このような「唐絵」多義性があったからにほかなりません。いや、多義性ではなく鵺性ぬえせいというべきかな( ´艸`)


2025年8月2日土曜日

根津美術館「唐絵」2

 

根津美術館で開催中の企画展「唐絵 中国絵画と日本中世の水墨画」――これまたNHK青山文化センター講座でピックアップした「魅惑の日本美術展」です。オープン後もあまりの暑さにビビッていましたが、1週間も経ってしまったので、学問研究のためには熱射病も厭わぬ覚悟で出かけました( ´艸`) 昨日はじめに掲げたのは、本展の「ごあいさつ」でした。

 「唐絵」とは何でしょうか? いつも引用する『新潮世界美術辞典』には、とても分かり易い700字ほどの説明が載っています。この辞典は無署名ですが、「唐絵」の項目は尊敬して止まない秋山光和先生が執筆されたにちがいありません。これを整理すると、大きく分けて3つの意味になるように思います。


2025年8月1日金曜日

根津美術館「唐絵」1

 

根津美術館「唐絵 中国絵画と日本中世の水墨画」<824日まで>

遣唐使が停止されたあと、日中間の交流は限られたものとなっていましたが、中世に入ると再び盛んとなり、様々な交易品が日本へともたらされました。それらの中には、中国の院体画や、牧谿ら画僧による水墨画の名品なども含まれていました。「唐絵」と呼ばれたこれらの作品は、とりわけ足利将軍家をはじめとする武家の間で尊ばれ、やがてそれらに倣った和製の唐絵も多数制作されることとなります。
 根津美術館のコレクションの中には、こうした中国画や日本中世の水墨画といった唐絵の名品が多数含まれます。本展覧会では、それらの中でも特に重要な作品をまとめて紹介いたします。