とくに忘れられないのは、2013年夏、サントリー美術館で開催された特別展「生誕250周年 谷文晁」に際し、カタログ巻頭に載せてもらった「谷文晁――この絵師、何者!? 人気者――」というエッセーです。「この絵師、何者?」というのが本展のキャッチコピーだったので、それに悪乗りしたタイトルでした(笑)
文晁の家から一軒おいた隣に、中島一鳳という画家が住んでいました。文晁の家が豪勢に暮らしているのに対し、一鳳は画名の上がらない貧乏絵描きでした。いつも文晁をうらやましく思っていた一鳳の奥さんは、あるとき自分の夫と文晁を比べながら愚痴をこぼしました。
癪にさわった一鳳は、さんざん文晁をけなした上、「人間は死んだあとが大切だ。俺の絵などは死後にますます高くなる」と言い放ちました。すると奥さんはちょっと考えてから、「では、あなたはいつお亡くなりになりますの」と訊いたというのです。
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