とはいえ、この屏風を又兵衛その人にアトリビュートするのは、様式的に無理があります。そこで注目されるのは、又兵衛工房にこのような相貌の人物を描く画家がいたという事実です。その美人の特徴は、又兵衛得意の豊頬長頤というよりむしろ卵形の大きな顔であり、くっきりとした目鼻立ちとオチョボ口にあります。辻さんいうところの「美保純タイプ」です。男の場合は太い眉毛が異様に目立つ点がポイントです。
すでに指摘されるように、チェスター・ビーティ図書館と海の見える杜美術館に分蔵される「村松物語絵巻」に登場する人物がそれを代表しています。「江戸名所図屏風」の人物は、これにかなり近似するのです。ところがこの絵巻は、彩色法や源氏雲などの装飾法において、又兵衛工房の作品と推定される古浄瑠璃絵巻群の「堀江」や「をぐり」と共通性をみせ、詞の筆跡もそれらと同じグループに分類されるというのです。
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