ランチのあと、弦楽器の収蔵庫を見学しましたが、壮観の一語に尽きるとはこのことでしょう。三菱商事の方々はこの日帰国するので、見送ったあと、一人でギャラリーを回ることにしました。ギャラリーは芸術ホール、ロダン・ホール、動物ホール、楽器ホール(バイオリン展示エリア+その他楽器エリア)、兵器ホールに分かれ、彫刻アベニューが加わる形になっています。
それでは、各ホールの「僕の一点」を挙げていきましょう。まず芸術ホールからは、ポール・ギュスターヴ・ドレの「エフタの犠牲」です。ドレは19世紀後半に活躍したフランスの画家です。厳密にいえば、版画家兼画家ですね。初めパリの風刺ジャーナルの挿絵画家としてデビューしますが、間もなく油絵作品を発表するようになります。
一般的には、バルザックの『滑稽譚』をはじめとする挿絵の方が高く評価されているようです。鹿島茂さんの新著『失われたパリの復元 バルザックの時代の街を歩く』(新潮社)でも、ドレは「ヴィエイユ・ランテルヌ通り」という石版画の作者として登場しています。しかし、油絵においても一流の芸術家であったことを、この「エフタの犠牲」が証明してくれています。
涙なくしては聞くことができない『聖書』のお話に取材し、みごとに造形化していますが、イギリスで興ったラファエル前派の影響が、海を越えてフランスにも及んだことを物語ってくれます。しかし、キアロスクーロ(陰影法)を重視するフランス・アカデミズムの伝統が、過度の細密描写を遠ざけ、フランス・ラファエル前派とでも呼びたいような、独特な様式を生み出しています。その点に僕は、一番の興味を引かれたことでした。
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