「月もろともに出潮の……」とあるのが興味深いですね。蓋のチョッと光を帯びたような茶色の地は、月夜のあえかな光と溶け合っているように感じられるからです。少なくとも、青天白日というか、まぶしいような陽光を想像する人はいないと思います。
身の内側に描かれる波は、老翁と姥を乗せた舟、また神主を乗せた新造の舟が、住吉明神に向かう瀬戸内の海に立つ波の表象かもしれません。陸上では微光であった月の光も、海上へ出れば水面に照り映えていたことでしょう。それを暗示しようとすれば、白化粧掛けこそふさわしい技法でした。
出潮とは、月の出とともに満ちてくる潮(『広辞苑』)です。筆を震わせるようにして加えられた小さな波頭は、満ちてくる潮のムーブマンを巧みに視覚化してくれている――なんて言ったら読み過ぎでしょうか。
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