大好きな葛飾北斎はとくに2点を選んでしゃべりました。「春秋二美人図」と「鍾馗騎獅図」です。前者の背景を見ると、僕は兼好法師『徒然草』の有名な一節「花は盛りに月は隈なきをのみ見るものかは」を思い出さずにはいられません。しかし美人は盛りを、隈なきをこそ見るべきだ――と北斎が主張しているような、エネルギーに満ちる双幅です(笑)
後者については、獅子の右後ろ足のデッサンがチョッと狂っているという見方があります。しかしこれこそがバロックなのです。バロックは17世紀初頭から18世紀中葉にかけ、ヨーロッパ全域で流行した芸術上の様式です。つまり時代様式だったのですが、古典主義は必ずバロック化するという見解もあるんです。
バロックは端正な古典様式に対して、流動性、律動性、感覚性、幻惑性、強烈な対照性などを特徴としました。一言でいえば古典主義を否定する「奇抜な着想」でした。まさに「鍾馗騎獅図」の特徴ではありませんか。北斎芸術とはバロックなのです。
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