『漢詩花ごよみ』の項目では「薇」となっていますが、「蕨わらび」のことだそうです。といってもワラビを直接詠んだ詩ではありません。中国古代、殷の処士であった伯夷・叔斉兄弟の有名な故事に登場するワラビ、つまり象徴としてのワラビなんです。
のちに周王となる武王が、殷の紂王ちゅうおうを討とうとしていることを知った伯夷・叔斉は、臣が君を弑しいすることの不義を諌めましたが聞き入れられませんでした。やがて武王は紂王を討ち、天下を統一しましたが、兄弟はその俸禄など受けることを潔よしとせず、洛陽郊外の首陽山に隠れました。
しかしそこに生えていたのはワラビだけ、兄弟にはそれしか食べるものがなく、やがて二人とも餓死してしまいました。これは堅忍不抜、清廉潔白という人間としての徳をたたえる有名な伝説で、初唐・王績の「野望」はそれを踏まえているんです。ですから秋の詩に、早春のワラビが登場しちゃうんです。
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