代表的著作ともいうべき『名画を見る眼』から大きな影響を受けたことは言うまでもありませんが、日本の美術を専攻する僕にとっては、やはり『日本近代美術史論』なんです。それまで我が国近代絵画に興味はありながらも、これをどのように扱ってよいものやら、皆目見当がつきませんでした。しかし高階先生の『日本近代美術史論』が、決定的示唆を与えてくれたのです。
みずからの直感を大切にすること、しかし直感の正しさを証明するために既発表の論文を可能な限り精緻に読み込むこと、その上で証明のプロセスを明晰な日本語をもって客観的に記述すること――以上3つの重要性を『日本近代美術史論』が教えてくれたのです。
この高階メソッドを使って書けば楽勝だと思って、初めて書いた近代絵画史論が「高橋由一 江戸絵画史の視点から」(『三彩』512・513 1990年)でした。これはのちに辻惟雄編『幕末・明治の画家たち 文明開化のはざまに』(ぺりかん社 1992年)に少し圧縮して載せてもらいましたが、鵜の真似をする烏はみごと水に溺れてしまったのでした。
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