このような風俗画家一蝶に、少なからぬ仏画――しかも本格的な着色仏画が遺されていることは不思議な気がします。世俗画のなかでもっとも世俗性の強い風俗画と、宗教画の中核を占める仏画――それは対極的絵画ジャンルだといってもよいでしょう。風俗画は見て楽しむ絵画であり、仏画は祈りを捧げる信仰の絵画です。桃山風俗画家の描いた仏画なんて見たことがありません。仏画も得意とした浮世絵師なんて聞いたことがありません。
ところが一蝶は、仏画を得意とする風俗画家だったんです。その基底には、一蝶が風俗画家として有名になってからも、出発点であったアカデミックな狩野派画家としてけっして失わなかった矜持があったのではないでしょうか。仏画はその自負を支えてくれる絵画ジャンルだったのだと思います。
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