英一蝶は江戸時代におけるもっともすぐれた風俗画家の一人でした。一蝶に少し先んじて活躍した久隅守景が、農村風俗に関心を寄せたのに対し、都市風俗をライトモチーフとして、忘れ難い作品を遺してくれました。その代表作として「布晒舞図」(遠山記念館蔵)があります。「四季日待図巻」(出光美術館蔵)があります。「吉原風俗画巻」(サントリトリー美術館蔵)があります。
これらの作品は元禄文化はなやかなりし頃、世界最大都市の一つになっていた江戸の心浮き立つような雰囲気のなかへ僕たちを誘ってくれます。しかしそれだけなら、ほかにも画家や作品がないではありません。
この3作品に僕が深く魅了されるのは、都市生活のなかに流れるアンニュイが表現されているからです。喧騒沸き立つ都市風俗を描きながら、楽器の音も歌う声も、話し声も足音もかすかに聞こえるだけ、むしろスタティックな画面感情が支配的なのです。
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