2024年5月19日日曜日

世田谷美術館「民藝」4

 

 その後、憧れの水尾氏に会い、一緒に仕事をする機会が与えられた。伝統ある東洋古美術雑誌『國華』の編集を手伝うことになったからである。そのころ氏は編集の実務をほとんど一人でこなしていた。それは著作から想像していた才人のまったく異なる一面だった。そして十何年か振りに、ふたたび國華社で毎週お会いするようになったころ贈られたのが『評伝 柳宗悦』である。若き日、氏は日本民藝館の館務を手伝い、晩年の柳宗悦に親炙した。柳に関し、すでに多くの著作がある水尾氏であったが、柳宗悦全集の編集を通して全容再考の必要を感じて成ったのが本書である。思想に対する尊敬以上に、人間に対する仰望があふれていて、読むものに嫉妬の情さえ起こさせる。

 水尾氏の美学はうらやましいほどに高踏的であり、文章は流麗であり、行動はお洒落である。デビュー詩集『汎神論』に、水尾賛を寄せた川崎洋の「君はいつも澄ましている」にそれは象徴されている。


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