一方、わが国では――少なくとも『万葉集』の時代には、彦星が織姫に会いに行くものと相場が決まっていたようです。『万葉集』の歌でよく知られるのは、巻8に載る「山上臣憶良の七夕の歌十二首」でしょう。その浪漫性あふれる第1首は……
天の川相向き立ちてわが恋ひし君来ますなり紐[ひも]解き設[ま]けな
中西さんは、「天の川に向かいて立ち、恋しく思っていたあなたがいらっしゃるようだ。紐を解いて待とう」と現代語訳をつけていますが、もちろんこれは織姫の立場から詠まれていますよね。このほかにも、「牽牛[ひこぼし]の嬬[つま]迎へ船漕ぎ出[づ]らし天の川原に霧の立てるは」をはじめ、彦星の方が出掛けることを示す歌がいくつか見出されます。
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