静嘉堂文庫美術館はやきものの宝庫です。もちろん、絵画も書もやきもの以外の工芸も、すばらしい名品がそろっています。しかし、今や知らない人はいない国宝「曜変天目」――固有名詞を使えば「稲葉天目」に象徴されるやきものこそ、静嘉堂文庫美術館がもっとも誇るべきジャンルだといってよいでしょう。そのなかから、国宝指定を受けるにふさわしいやきもの3点を選んでみました。
「曜変天目」の名をすでにあげましたが、これにすぐるとも劣らぬ美質をそなえる中国のやきものが、我が「油滴天目」です。「曜変天目」と同じく、福建省の建窯で焼かれた南宋の天目茶碗で、ほかに例をみない大きさにまず驚かされます。
朝顔形の姿もめずらしく、黒釉上に密集する油滴斑は、幽玄にして妖艶なる光を発して見るものの魂を奪います。華麗なる「曜変天目」とは異なる、恐ろしいような底光りの美だといってもよいでしょう。世にすぐれた油滴天目は少なくありませんが、これを凌駕する作品は求めがたいように感じられます。
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