四十代終りころ、北斎は横中判の洋風風景画を五点ほど発表するのだが、題名のほか、落款も「ほくさゐゑがく」と平仮名で入れている。それらを横書きにして、あたかも欧文のように見せている。北斎は早くから浮絵に関心を示していたが、その透視図法に陰影法を加えて、洋風的雰囲気をさらに強めている。もくもくと湧き上がる雲、横に伸びる人間の影、周囲を囲むタイル風装飾など、みな洋風を強調する仕掛けである。北斎が洋風画家・司馬江漢に入門したという憶説がうまれたのも、なるほどと思われる。
そのうちの一点が「くだんうしがふち」で、田安御門の前から俎坂へ向かって下る九段坂と、その南側に広がる牛ヶ淵を視野に収めている。
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