*吉田善彦「回想の御舟先生」
(山種美術館『開館10周年記念特別展 速水御舟――その人と芸術――』カタログ 1976年)
研究会の日、画室を片付けに入って描きかけの御作を拝見出来たことも得難いことであった。「白芙蓉」は葉も墨ぐまも何の当りすらなく、唯毛氈に置かれた白紙にぽってりと動かせば流れる程胡粉が溜っているだけのを拝見した。胡粉を溶いていると絵具ではなく花そのものの気持がするといわれたことが、全くその通りで絵具とは思えなかった。「牡丹」などの描線から順を追って拝見出来た。殊に花の表現は見る度に変えられ其の執拗さには驚嘆するばかりであったが、何等渋滞の跡すらなく堂々の威厳ある風格の花は、成るべくして成ったものとして美事に定着した。更に白い蕾が下に配されるに至って、鮮やかな心にくい完結となった。果してどこまでを予定されたか知る由もないが、先生の身を以て打込まれた体験を拝見出来たことは、あの怖しい気迫に満ちたお作を通して、いつまでも心の支えである。
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