あるいは、乞食の有無という問題も、欧米人の興味を掻きたてたそうです。日本に乞食はいないという言説が流布していたからです。そんなことがあるはずもなく、当時の日本に乞食がいたことは事実です。しかし、例えばかのケンペルがいう「乞食」とは、今日的な意味での乞食ではなく、正しくいえば遊行する人々であって、お伊勢詣や巡礼、比丘尼、山伏、旅芸人が含まれていると、渡辺さんは見抜いてしまうのです。
いずれにせよ、徳川期の乞食は、欧米人観察者が故国で知っていた工業化社会における乞食とは、異なる社会的文化的文脈に属していたと、渡辺さんは考えています。これだけでもホッとした気持ちになりますが、渡辺さんは次のような疑問に対する回答として、日本人の親和と礼節という話を始めるのです。
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