2017年9月18日月曜日

東京都美術館「ボストン美術館の至宝展」4



 それは199986日のこと、一蝶最大のすぐれた力作であることが一目で理解されました。日本では誰も知らない、ジャーナリスティックにいえば新発見の作品です。すぐにも紹介したいと思いましたが、性怠惰にして、ようやく『國華』1373号に拙稿を寄せた時には、すでに10年以上が経っていました。今回の「ボストン美術館の至宝展」で、これが本邦初公開となったわけです。もちろん「僕の一点」です。


江戸時代にたくさん描かれた涅槃図のなかで、一頭地を抜く出来映えを誇っていると言ってよいでしょう。一蝶は先行の図像を参照したにちがいありませんが、これを特定することはむずかしそうです。狩野派の涅槃図としては、まず京都・大徳寺が所蔵する狩野松栄バージョンが思い出されますが、一蝶が別系統の図像によったことは明らかです。おそらく狩野派粉本のなかに、このような涅槃図があったのでしょう。

画の裏にある墨書銘によって、正徳3年、つまり1713年に制作されたことが分かるのも、きわめて重要です。幇間のようなこともやっていた一蝶が、幕府の逆鱗に触れ、伊豆七島の三宅島に流されること11年、ようやく大赦にあって懐かしき江戸に戻ってきてから4年後、62歳のときの作品ということになります。

 

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