2017年8月15日火曜日

静嘉堂文庫美術館「私の好きな茶道具ベスト10」18<寸松庵色紙>2


「やと」は「宿」ですが、「野渡」つまり野中にある川の渡し場でもあり、だからこそ、続く「かは」は「変わる」であるとともに、「川」にもなりやすいのです。したがって「やと」は「移る」「移す」の準縁語となります。もちろん「変る」と「移る」も縁語関係に結ばれています。

「きく」はまず「菊」ですが、「崎嶇」つまり山道の険しいこと→世渡りの下手なことを思い起こさせますから、移動のイメージと結びつき、「はな」は「花」ですが、「端[はな]」でもあり、前の「初め」の縁語ともなっています。

もちろんこの中には、深読みや間違いもあるでしょう。また、紀貫之が意識したかどうかも分かりません。しかし無意識であったとしても、このような縁語関係は――あるいはそのうちのいくつかは確かに成立しています。極力漢字を少なくし、ほとんどを仮名にしているのは、そのためにほかなりません。鑑賞者のなかには、それを読み取った人もいたのではないでしょうか。

このような錯綜する縁語関係こそ、『万葉集』とは異なる『古今和歌集』の特徴です。それを理解しやすくするために、三色紙のような散し書きが発達したのだというのが私見です。つまり、一行や二行に書かれた場合と比較すると、散し書きは視覚的縁語探索をとても容易にすると思うのですが!?

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