鶴岡朋美『実景を描く 江戸後期風景描写をめぐる知の営み』 思文閣出版 2026年
鶴岡朋美さんの論文をはじめて読んだのは、今から35年近くまえ1992年のことでした。『古美術』100号記念論文賞に選ばれた「谷文晁筆『公余探勝図』とその周辺」です。僕も谷文晁という画家の真景図に関心を寄せていましたが、依頼主である松平定信に焦点をしぼった考察に、深く心を動かされました。
それ以来鶴岡さんはこの方法論を活用して研究を進め、2012年『江戸期実景図の研究』を著わしました。その後の研究をまとめたのが、この『実景を描く 江戸後期風景描写をめぐる知の営み』です。
鶴岡さんは実景図の背景に存在する権力構造に注目し、地誌編纂事業や対外政策など、さまざまな視点からこれを読み解いていきます。果敢に越境を試みる近世文化における「知の営み」を摘出し、画家や流派という視点からは隠されていた近世絵画史の新しい魅力に気づかせてくれます。
僕は谷文晁筆「熊野舟行図巻」の鳥瞰的構図に、依頼主・徳川治宝がもっていた国見という支配者のDNAを見いだす分析をとても興味深く拝読しました。そして理事をつとめる出光美術館の助成によって本書が発刊されたことも、大変うれしく感じたことでした。
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